新技術で新世代に対応FPD 用ガラス基板の精密割断方式
三星ダイヤモンドがFPDガラスの割断装置の製造を始めたのは1977 年で、電卓やゲーム機用液晶表示板の生産ラインに供された。これは現在採用されている割断システムの原型となるもので、本用途に世界で最も早く開発されたシステムの一つである。その後、液晶表示板(以後、FPDと略す)は、省エネ化、カラー化、高精細化、大型化等々の進化を続け、そのなかで液晶ガラスは薄型化と高靭性化が進み、基板ガラスも大型化の一途をたどっている。ガラス基板割断の最先端技術の一端を紹介したい。 昨年、第5 世代ガラス基板の量産ラインが一部稼動を開始し、第7 世代の開発も視野に入ってきた。第5 世代では更にガラス基板が大きくなっただけでなく、滴下注入が液晶注入法の主流となり、従来の割断システムでの対応では困難が伴うため、その技術革新が求められた。 本稿では、第5 世代ガラス基板対応割断システムを実現させた要素技術とシステムを紹介し、併せてFPD ガラス割断の最新技術の紹介とその将来を展望する。FPD用ガラス基板割断技術の進化ガラスを切るということは、「割断」と表現するのが最もふさわしい。1) すなわち、ガラス表面に硬く鋭いもので筋をつけガラスの厚さ方向に垂直クラックを作ること、このクラックを伸ばすように応力をかけて割る二つの行為からなる。ここで、ガラス面に傷を入れることを「スクライブ」、割ることを「ブレーク」、「分断」と称している。2)
従来のFPD製造プロセスでは、分断のあと液晶を注入してきた。従って、FPD用ガラスの割断では液晶の注入口から水が入ることは許されず、乾式で行う必要がある。本用途にはホイール形状をしたガラス切りが供され、乾式での使用は勿論のこと、スクライブしろがない、量産が容易で安価かつ使いやすいなどの特徴がある。 スクライブによる垂直クラック(リブマーク)の深さは、経験上板厚の10〜15%となる刃先荷重を選定するのが、水平クラックの発達を抑制しつつ良好な分断が行われる最適な作業領域として知られてきた。3)所定のリブマーク深さを確保するための刃先荷重は、厚板に対しては高く、薄板に対しては低く設定する。スクライブでは水平クラックの発生が問題となるが、刃先の頂角を鈍角にするほど高い刃先荷重でも発達が少ないことから、厚板に対しては鈍角に、薄板に対しては鋭角が選定される。 従来のFPD ガラスの割断プロセスでは、スクライブとブレーク工程を組み合わせている。液晶の滴下注入が主流となる第5 世代ガラス基板のFPD パネル製造プロセスでは、薄いガラスからなる液晶が充填されたマザーガラス基板からセルを分断するため、分断のための機械的ストレスをガラス基板へかけることができず、ブレークレス方式を取らざるを得ない。 これを可能にしたのが、スクライブ加工時にガラス基板に対して極めて深い垂直クラックを形成させることができる「高浸断(Cutting)透刃先−ペネットOR 」の開発であり、ガラス割断(Scribing & Breaking)という概念が、切る刃先「高浸透刃先ペネットOR」を開発させた。4) 刃先性能の進化第5世代ガラス基板対応分断システムで、スクライブ時の垂直クラック伸長能力(浸透能力)が重要な役割を演じたことはすでに触れた。刃先稜線を形成する二つの円錐面の表面粗さを粗くして、刃先部に凹凸を付与することで浸透能力を高められることはよく知られている。
稜線のうねり幅の中心で測定した凹凸(μmRz)が0.8μm程度あれば、高い浸透能力を得られるが、再現性よく刃先を作りこむこと、また細くて直線性の優れたスクライブ線を得ることには難点がある。これらの問題点を解決すべく、刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成することを特徴とすとき、垂直クラックをガラス厚みの80%以上に伸長させることが可能となる。 また工具である以上、その寿命の向上も重要である。FPD ガラス分断システムに当初使われたホイール型ガラス切りは超硬合金製であった。その後、工具の長寿命化により設備の稼働率向上のため焼結ダイヤモンド製刃先が採用されるようになり、超硬合金の約10 倍近い寿命を実現した。 刃先は、稜線部が磨耗した結果寿命となる。工具の孔とピンとは線接触しているため、同じ材質同士ならピンの方が早く磨耗し、孔とピンの摩擦力が増大すると稜線部の磨耗は加速される。 このため、刃先よりも耐摩耗性に富む材料をピンにすることで、刃先の寿命を向上させることも可能である。ピンの材質には、超硬合金から電着ダイヤモンド、焼結ダイヤモンド等が採用されてきた。超硬合金にDLCやCVDダイヤモンドを被覆したピンもあるが、大勢を占めるには至っていない。 さらに、刃先性能を長時間持続させる上で、滑らかでかつ高い回転精度をいかに持続させるかも重要であり、ピボット構造軸を有する刃先が開発された。 生産性の向上−第5世代ガラス基板対応分断機の開発−表一に、主流世代のガラス基板の大きさの推移とLCD サイズ別の取り出し枚数を示す。世代交代のサイクルは早まり、ガラスの大きさも飛躍的に増大してきた。 生産性向上の手段として、ガラス基板を大型化して1 枚のガラス基板からの取り出し枚数を増加させることに目がいきがちであるが、第5 世代ではガラスの大型化と同時にタクトタイムの大幅短縮も実現した。タクトタイムの短縮で特筆されるのは、液晶注入法として滴下方式(One Drop Fill:ODF)が採用され、これまで最もタクトを要した液晶の封入効率が劇的に向上したことである。 その結果、これまで液晶の入っていない空セル基板を割断していたのが、ODF では液晶が充填されたマザーガラス基板からセルを分断することになる。FPDガラス基板の分断はこれまで、スクライブ→反転→ブレークをA面、B面各2回繰り返す4工程により行われてきた。第4世代と第5世代では基板の面積が2倍強、重量も2倍近く、さらにガラスは0.7mm へと薄くなっており、従来のような搬送・反転ではセルギャップむらが発生したり、裏面からの加圧ブレークでは、基板へのダメージ抑制も困難となってきた。 タクトタイムの短縮では、シール時間の短縮も忘れてはならない。これまで使われてきたシリコン系の熱硬化性シーラントに対し、UV 硬化型のシーラントが採用された。従来はシリコン系シーラントの持つ弾性を利用してブレークしていたが、UV 硬化型シーラントは硬く弾性を利用したブレークは困難となった。このように第5 世代では、単なる液晶封入工程の変更にとどまらず、ガラス基板の割断工程にまで革新が求められるようになった。
従来のプロセスでは、既述のようにスクライブとブレーク(分断)工程を組み合わせてきた。液晶の滴下注入が主流となる第5 世代のFPD パネル製造プロセスでは、薄いガラスからなる液晶が充填されたセルを分断することになる。分断のための反転も、ガラス基板にストレスをかけてブレークすることもできないため、ブレークレス方式を取らざるを得ない。 これを解決したのが前述の「高浸透刃先ペネットOR」の開発であり、ガラス割断(Scribing & Breaking)という従来の概念が、切断(Cutting)という概念に変わることになる。 図1 に、代表的な第5世代対応分断機を示す。本機では上下分断方式を採用し、アレイ側とCF 側の両面から同時に切断する。ブレークとガラス基板の反転を不要としたため、装置の設置面積が従来システムの約半分になり、装置価格の引き下げをも実現した。 F P D 用ガラス基板割断の最新技術レーザーを利用した硬脆材料の割断(切断)が最近注目を集めており、ここではガラスへの応用について紹介することにしたい。レーザーを利用したガラス切断の試みは、レーザーの開発以来、日本では勿論、世界中で試みられ、多くの技術論文・特許申請がある。その多くはスクライブ工程を経ず、一気に切断( Full Body Cutting)しようとの試みであり、実用レベルでの成功例は見当たらない。そのなかで、スクライブと分断とからなる手法が開発された。7) 図2に、レーザースクライブの原理を示す。スクライブ開始点に、微小なトリガークラックを機械的に生じさせた後、長楕円形に整形したCO2 レーザー光(波長10.6μm)を照射しつつ、スクライブ予定線上を加熱しながら高速で移動し、加熱ビームの後端付近を急冷することによって、トリガークラックを起点に垂直クラックを生成させる。 この場合形成される垂直クラックは、刃先スクライブの場合同様に、板厚の10〜15%である。得られた垂直クラックは、スクライブ終了後視認できないことから、盲亀裂(ブラインドクラック) と称する。その理由は、刃先によるスクライブと異なり、微小塑性変形域形成による残留応力が存在せず、ガラスの内部分子構造を形成するSiO2 ネットワークのみが切断されていることによる。スクライブを終了したガラスは刃先スクライブ品と同様、機械的な曲げ応力を与えることにより分断される。 表二に、スクライブの違いによるガラスの破壊強度、破壊モード3) を示す。刃先でスクライブしたガラスの強度はバラツキが少ないものの低い値を示し、破壊はかならずエッジ部から発生する。レーザーでスクライブしたものの強度は、平均強度は高いがバラツキが大きい。その破壊モードは三つの領域に分かれ、高強度を示すものほど面内にクラック起点を持つものが多い。 図中、A,Bの領域は、取り扱い中に付けた傷などに起因するいわゆる「Griffith の割れ目」、Cが処女ガラス強度を示しているものと推察される。8) レーザー切断されたガラスのエッジは、切断に伴う欠陥がほとんどなく、ガラス本来の強度であると判断していいだろう。 レーザースクライブの利点は、上述のようにエッジ強度が向上する以外に、スクライブ中に発生するパーティクルが大幅に抑制されることから、これらの特徴を生かしてすでに多くの生産ラインで稼動実績がある。図3にレーザー・カッティングシステムを示す。ブレークレス化が進行するなか、板厚の10〜15%の垂直クラックしか形成できないというレーザースクライブの特徴を生かしたり、改良された分断技術の開発が待たれる。
結語−第7世代へFPD 用ガラス基板の世代交代は速度をさらに速め、第6世代を飛び越して第7世代(1850×2000) の開発へと進んでおり、生産拠点は日本、韓国、台湾からさらには大きなうねりとなって中国へと向かっている。 FPD用ガラス基板の割断システムでは、これまで以上にタクトアップ化とコストダウンへの要請が強まるのは必至であり、それは装置ばかりか工具にも長寿命化と低コスト化要望という形で及びつつある。これへの対応は火急の課題であり、より一層の技術開発が求められている。本稿が関係各位のご参考になれば幸甚である。 参考文献 |
Copyright © 2002 ARCO Publication, Inc. All Rights Reserved. |